近年、中小企業の間でもSBT認定を取得する動きが活発化しています。
本記事では、特にサプライチェーン全体での温室効果ガス削減が求められる背景と、中小企業におけるSBT認定の意義や取得数の推移について解説します。
SBT(Science Based Targets)とは
企業が産業革命以降の気温上昇を2℃未満(もしくは1.5℃未満)に抑えるために、科学的根拠に基づいて温室効果ガス(GHG)の排出削減目標を設定する基準です。パリ協定に沿った目標を設定し、企業が今後5~15年先を見据えた持続可能なビジネスを推進するための重要なステップとなります。
<目次>
1. SBT登録企業数と推移(毎日更新)
※SBTiの公開データを元に集計しています。
2. 中小企業版SBT認定取得の背景
サプライチェーン全体での排出削減の要請
多くの大企業がSBT認定を取得する中で、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を管理する必要性が高まっています。これにより、大企業は取引先にもScope3(※)の排出量削減を求めるようになり、中小企業も自社の排出量削減に取り組むことが求められています。この流れは、特に国際的にビジネスを展開する企業にとって重要であり、サプライチェーン全体での排出削減が競争力を維持するための重要な要素となっています。
※スコープについて
Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
サプライチェーン排出量 = Scope1排出量 + Scope2排出量 + Scope3排出量
法規制の強化
気候変動に対する国際的な取り組みが進む中で、各国の政府は企業に対して厳しい排出削減目標を設定しています。これに伴い、企業は法規制に準拠するためにも、温室効果ガス排出量の削減が求められています。SBT認定は、そのような規制を遵守するための一助となります。
投資家と消費者からのプレッシャー
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大する中で、投資家は企業の環境対応を重要視しています。SBT認定を取得することで、中小企業もESG投資家からの評価を得やすくなり、資金調達の面で有利になります。また、環境意識の高い消費者からの支持も得やすくなり、市場競争力が向上します。
3. SBT認定のメリット
コスト削減:エネルギー効率の向上や省エネ対策を通じて、長期的なコスト削減が可能です。
補助金取得時の加点:CO2排出削減を目的としたプロジェクトに対する補助金では、SBT認定が加点要素として含まれることがあります。このような補助金は、企業の環境対策を支援し、持続可能なビジネスモデルへの移行を促進します。
市場競争力の強化:環境に配慮した製品やサービスを提供することで、取引先、顧客からの評価が高まり、競争優位性が向上します。
リスク管理:環境規制の強化に対する準備ができ、将来的なビジネスリスクを低減できます。
4. SBT認定取得の手順
温室効果ガスインベントリーの作成: 自社の排出量を算定し、Scope1(直接排出)、Scope2(間接排出)、および必要に応じてScope3(サプライチェーン全体の排出)を特定します。
目標の設定: SBTツールを使用して、具体的な削減目標を設定します。この際、5〜10年以内の目標設定が求められます。
申請書類の提出: 計算した目標値やデータをSBTイニシアチブに提出します。
審査と認定: 提出された目標がSBT基準を満たしているか審査され、合格すれば認定が付与されます。
5. 中小企業の具体的事例
セッツ株式会社:製造業(化学) <Scope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組み> 【⽬標】2030年に2019年⽐で27.5%削減 【取組み】設備更新、導⼊に伴うエネルギー使⽤の効率化・太陽光パネル設置(PPA)による再⽣可能エネルギー利⽤検討。 <再エネ100%の⽬標について> 【⽬標】2050 年までに再エネ100%を達成
株式会社⼤川印刷:製造業(その他製品(オフセット印刷)) <Scope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組み> 【⽬標】Scope2を2019年までに2017年基準の100%を削減 【取組み】本社⼯場で使⽤する電⼒のうち⼀部を太陽光パネルを設置し⾃家消費⾏い、残りの電⼒については、購⼊電⼒を再エネ電⼒メニューに切り替える。Scope1については⾞両の燃料転換(再エネ化)等を検討する。
八州建設株式会社:総合建設業 <Scope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組み> 【⽬標】2030年に2018年⽐で50%削減取り組みとして営業⾞両及び⼯事⾞両について電化を推進する。本社及び現場事務所で使⽤する電⼒の再エネ化を推進する。 <再エネ100%の⽬標について> 【⽬標】2030年までに再エネ50%を達成、2040年までに再エネ100%を達成する。
深田電機株式会社:卸売業 <Scope1・2の削減目標と削減に向けた取り組み> 【⽬標】2030年に2018年比で50.4%削減。 【取組み】既に、全事業所のLED化、空調設備の効率化等に取り組んでいる。今後、太陽光発電設備の設置による再エネ量の拡大や、営業車や輸送車両、場内車輛等についてのEV化を目指し、順次化石燃料の削減に取り組む。2020年度に稼働する予定の新小牧営業所については、太陽光発電で充電できるEVスタンドの設置と電気自動車の導入を先行して実施することを検討している。
株式会社戸田家:旅館業 <Scope1・2の削減目標と削減に向けた取り組み> 【⽬標】2030年に2018年比で20%削減。 【取組み】省エネ化の推進、燃料転換及び車両のEV化等を検討する。
株式会社ゲットイット:情報・通信業 <Scope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組み> 【⽬標】2020年に2019年⽐で100%削減。 【取組み】再エネ由来J-クレジットを使⽤。 <Scope3の削減⽬標と削減に向けた取り組み> Scope3カテゴリ5:廃棄物の内訳を把握し、適切な処理をする。
株式会社浜⽥:産業廃棄物処理業 <Scope1・2の削減⽬標と削減に向けた取り組み> 【⽬標】2030年に2018年⽐で50.4%削減 【取組み】ガソリン・軽油の使⽤量を2020年度以降の環境⽬標に設定し、使⽤量削減を図る。再⽣可能エネルギー電気への切替を推進する環境マネジメントシステムの運⽤を推進し、全社を挙げてCO2排出量削減に努める。⾮化⽯証書やJクレジットも利⽤し、⽬標を達成する。
6. まとめ
中小企業がSBT認定を取得することは、企業の持続可能な成長と環境保護の両立を目指す上で重要なステップです。適切な目標設定と計画的な実行を通じて、企業価値の向上と環境への貢献を実現しましょう。
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